論文の紹介
原沢英夫(2005) 地球温暖化の日本への影響
環境研究 No.138: 24-31.
著者は、地球温暖化による影響が国内外で種々の形で現れてきていることを、いろいろな報告やデータを引用しながら、様々な側面から取り上げている。
まず、
海外における温暖化の影響事例を挙げているが、その中で、特に、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第3次報告書において世界中の多数の論文がまとめられ、雪氷や、自然生態系に地球温暖化の影響が出ていると結論付けられたと述べている。なお、
IPCC報告書は、地球環境研究にかかわる多数の国の第一線の研究者達によって作成されたものである。
本論文では、
地球温暖化の海外における影響事例について、「
氷河の縮小、永久凍土の融解、河川・湖沼の氷結期間の短縮、中・高緯度地域の(動植物)の生長(可能)期間の延長、(寒地系)植物と動物の生存域の極方向および高地への移動、植物・動物種の生育(種)数の減少、開花時期、昆虫の出現(時期)、鳥の卵生の早期化」を挙げている(カッコ内は分かり易いように筆者が加筆)。
日本については、
気候(気温、降水量、海水位)の変化、
身近な自然(高山植物の減少、開花時期の早期化と紅葉の遅延、暖地系昆虫の北上、渡り鳥の移動時期の変化、哺乳動物の高山への分布拡大、海洋動植物の分布域の変化)への影響、市民生活(健康、水害、水環境、産業)への影響という点から、地球温暖化の影響を述べている。また、地球温暖化の過程で生じる異常気象に伴う影響についても述べている。
以上は、これまでに観測、観察された事象であるが、今後の日本における地球温暖化の影響の予測についても述べている。すなわち、大型電子計算機を使った「地球シミュレータ」による地球温暖化予測計算によると、今後、経済重視で国際化がさらに進むという仮定の下では、1971年〜2000年と比較した場合に、
100年後の日本の平均気温は4.4℃上昇、降水量は19%増加、100mm以上の豪雨日数は平均的に増加するという。生態系への影響については、寒地系植物への影響が大きく、
高山植物では絶滅する種も出るとしている。市民生活への影響では、
熱中症患者の増加、大気汚染や水質汚染等の環境問題への影響、スキー産業や冷暖房などのエネルギー需要等への影響について述べている。
さらに、異常気象と地球温暖化との関係についても、IPCC報告書を引用して述べている。すなわち、観測および予測ともに可能性が(かなり)高い事象として、「
ほとんど全ての陸域で最高気温が上昇し、暑い日が増加する」「
ほとんど全ての陸域で最低気温が上昇し、寒い日や降霜日数が減少する」「大部分の陸域で気温の日較差が縮小する」ことを挙げている。また、「
強い降水現象の増加」は、観察では「北半球の中・高緯度の陸域の多くで可能性が高い」とされ、予測では「多くの地域で可能性がかなり高い」と報告されている。
最後に、今後の課題として重要なことは、温暖化に最も脆弱な自然生態系等を監視(
モニタリング)するために、専門家ばかりでなく一般の人達を巻き込んだ全国ネットワークを構築し実施すること、温室効果ガスの
排出を削減する対策を実施すること、温暖化の影響は避けることが出来ないので、影響を軽減するための「
適応策」が必要であると述べている。
農林業に関係する適応策として、作物の植え付け・収穫時期等の変更、土壌の栄養素や水分の保持能力の改善、水利用の効率化、貯水池等の建設による水供給量の増加、ダム・堤防等の強化などを例示している。
本論文は、地球温暖化の状況証拠や予測結果を具体的に分かり易く示した総説としてたいへんためになる。しかし、まだデータが足りずに解析が十分にできていない事象(台風の強大化など)もあり、また、地球温暖化が具体的に農作物の栽培法や品種に及ぼす影響、その具体的な適応策など、
今後究明すべき課題が多い。さらに、紀伊半島を含む地域的な影響についても、研究的に詰めていくべき課題である。 (MM 2006.10.11)
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